ごめんなさい

客先対応の同僚が熱中症にかかり、高齢のこともあって再起不能になった。個人的に電話したら、くれぐれも仕事を頼むと任された。この仕事が社内では評価されず、待遇も悪いのに、彼はゆるぎないプライドをもっていた。だから、その誇りを引き継いでほしいという気持ちは痛いほどわかり、僕はノーとは言えなかった。そんな気はまるでないのに、うそをついてしまった。

 

この職場で、ダメになってしまった人を多く見てきた。安く買い叩かれるのも、すりつぶされて心身を破壊されるのもゴメンだ。過度に頑張りすぎず、精神を安定させるための習慣作りくらいの気持ちで行っているし、そのことに罪悪感は無い。不誠実な相手に対して貸しなど無いと思っているからだ。しかし、自分の仕事に誇りを持っている人、まじめで有能な人が、こういう風にひどい扱いをうけてリタイアしていくのを見るのは心苦しいものだ。

 

しかし、僕は自分のことで精一杯なのだ。人の助けにはなれないし、力を貸す気もないのに同情しているフリだけするのなど真っ平ゴメンだ。薄情だといわれてもいい。いざというときに頼りにならない人間のために、自分を危険にさらす気などさらさらない。そう、思っている。

 

僕は、去っていく同僚にはその気持ちを伝えられなかった。彼を騙したのだ。心苦しい。

 

ごめんなさい。